STYLE+PLUS journal
人、仕事、旅、アート。 日々の発見から、自分らしいSTYLEづくりを考えるジャーナル。
「SECOND」から「SELECT」へ
Circular Fashion in Australia
20年ぶりのオセアニア
今年の夏の休暇は、オーストラリアのブリスベンで過ごしました。私にとっては、実に20年ぶりのオセアニアです。
南半球は冬とはいえ、日中は20度を超える日も多く、早朝の真っ青な空に差し込む太陽の光が清々しく感じられました。
約20年前、ワーキングホリデービザを使って、ニュージーランドに10か月滞在したことがあります。3〜4年勤めた会社を辞め、貯めたお金を携えて渡航しました。これから先のことを考えるための、いわば人生の夏休みでした。
暮らしは節約が基本。新しい服を気軽に買う余裕はなく、街にぽつぽつとあったSecondhand Shopで掘り出し物を見つけることが、ささやかな楽しみでした。衣料品だけでなく、ポットや皿などの生活用品まで、かなり使い込まれた品が並んでいたことを覚えています。
もっとも、私にとっての古着は、節約のためだけの選択肢ではなく、それ以上の魅力がありました。大学時代を過ごした神戸、三宮界隈には当時からファッションとしての「古着屋」が軒を連ねていました。雰囲気のある雑居ビルや高架下に、薄暗いランプとお香の匂い、オーナーがセレクトしたBGM。古着屋が作り出す独特の世界に引き込まれ、居るだけで想像が膨らみました。
自分に合いそうな一着、誰も着ていないようなデザインを見つけると、思いがけない宝物を手にしたような気持ちになったものです。
古着をあらわす言葉
古着を表す言葉がいくつかあります。
USED、Secondhand、Vintage、Pre-loved
USEDが「使用されたもの」という状態を直接的に表すのに対し、Secondhandは「以前、誰かの手にあったもの」というニュアンスを持ちます。
Vintageの語源は、ブドウの収穫。特定の年に収穫されたブドウからつくられたものを「ヴィンテージワイン」と呼びます。そこから転じて、現在では、年代を経てもなお価値を認められるものを表す言葉としても使われています。Pre-lovedは、「以前、誰かに愛されていたもの」Secondhandよりも、ものへの愛着や物語を感じさせる、ポジティブな響きをもつ言葉です。
同じ「古着」であっても、選ぶ言葉によって、その価値の伝わり方は異なります。20年前、ニュージーランドで目にした古着は、私の記憶ではまさにSecondhandでした。「まだ使えるものを、必要とする次の人へ」。ものを大切に使う価値観と、必要とする人へ手渡す善意によって成り立つ仕組みのように感じられました。
ブリスベンで出会った古着屋
今回ブリスベンで目にしたのは、その記憶とは異なる風景でした。滞在先から初めて近所を歩いた日、一軒の店が目に留まりました。「The Creative Collective Brisbane」
旧教会と思われる建物。開放的な高い天井と、可愛らしいステンドグラス。その空間には、宝箱を開いたように洋服や雑貨が散りばめられています。高級ブランドの古着、オーストラリアブランドの古着、ハンドメイドデザイナーによる作品。オーナーのロレッタさんによれば地元の人から持ち込まれた服が多く、「量産されない一点もの」をコンセプトに販売しているとのこと。鮮やかな色、大胆なプリント、質のよい素材。一点一点は異なるテイストを持ちながら、ロレッタさんの編集によって、ひとつの世界として心地よく構成されています。
そこに並ぶ服は、もはや単なる「古着」という言葉では捉えきれません。この店が掲げていた言葉は、「Circular Fashion(循環型ファッション)」でした。
この店との出会いをきっかけに、滞在中は街の古着店を意識して見るようになりました。若い世代をターゲットに「Vintage」を掲げる店。質の高い服やブランド品を扱い、「Circular」「Rotate」といった循環を想起させる言葉を使う店。一方では、Red Cross ShopやVinniesのように、寄付された品を販売し、その収益を社会活動へつなげるOpportunity Shop(Op Shop)もあります。
ブリスベンの街の規模に対して「古着屋」の数は多く感じられ、その役割や価値の伝え方も一様ではありません。
about Circular Fashion
Circular Fashionとは
Circular Fashionは、単に古着を新しい言葉で呼び替えたものではありません。
2014年、スウェーデンのサステナビリティ研究者アンナ・ブリスマーが、Circular Economy(循環型経済)の考え方をファッションに応用し、「Circular Fashion」という言葉を提唱したとされています。[1]
服が不要になった後だけではなく、生産段階から廃棄や汚染を減らし、長く使えることを考える。そして、修理、再販売、再利用、リメイク、リサイクルなどを通して、服や素材をできるだけ長く循環させていく考え方です。
2017年にはエレン・マッカーサー財団が『A New Textiles Economy: Redesigning Fashion’s Future』を発表。衣服を「つくる・売る・使う」仕組みそのものを循環型へ移行する必要性を示し、この考え方がファッション産業で広く共有される大きな契機となりました。[2]
Secondhandが、すでに使われたものを次の人がそのまま再使用することを指すのに対し、Circular Fashionは、生産から使用、回収、その後の再利用までを捉える、より広い概念です。
この変化は、街の小さな古着店だけにとどまりません。
近年は百貨店やラグジュアリーブランドも、ヴィンテージやリセールを自らの事業に取り込み始めています。日本でも2026年、バーニーズ ジャパンがヴィンテージ・ユーズド専門店「CHELSEA VINTAGE ROOM™」を銀座にオープンしました。
同社は、時代を超えて残る品に新たな視点とスタイリングを加え、次の持ち主へ価値をつなぐことを「ラグジュアリーの循環」と表現しています。販売だけでなく買取も行い、ヴィンテージの背景やストーリーを次の持ち主へつなぐことをプロジェクトの重要なテーマに掲げています。
「SECOND」から「SELECT」へ
世界の古着市場は拡大を続けています。ThredUpとGlobalDataによる2026年の調査では、世界のSecondhand市場は2030年に約3,930億ドルへ達し、今後5年間で衣料市場全体の約2倍のペースで成長すると予測されています。[3]
古着はもはや、一部の愛好家だけのものではありません。かつての「誰かの次に着る古着」から「積極的に選ぶ古着」へ。
新品か中古か、有名なブランドかどうか、トレンドかどうか。そうした区分だけでは、服の価値を測れない時代になりつつあります。素材や状態を見極め、自分のSTYLEに合うかを考える。手持ちの服が活かされるか。環境に負荷のない素材で、長く付き合える一着なのか。
大切なことは、流行やブランドだけに委ねない自分なりの基準です。自分にとって本当に価値のある一着を見極める力が、より大切になっていくのだと思います。
参考資料・出典
[1]Green Strategy / Anna Brismar, What is Circular Fashion? および About. 2014年にストックホルムで「Circular Fashion – Show and Talk 2014」を開催し、Circular Fashionの概念を提示。
[2]Ellen MacArthur Foundation, A New Textiles Economy: Redesigning Fashion’s Future, 2017. 廃棄や汚染を設計段階からなくし、製品・素材を循環させる循環型テキスタイル経済への転換を提言。
[3]ThredUp / GlobalData, 2026 Resale Report. 世界のSecondhand市場は2030年に3,930億ドルへ達し、今後5年間で衣料市場全体の約2倍の速度で成長すると予測。
写真撮影
by Midori Okutake