企画展「街に写真館があったころ」~常磐台写真場とNU STUDIOくにたち(芸術資源館)の共通点~

東京都小金井市にある江戸東京たてもの園で、明日9月23日に会期が終了してしまう企画展「街に写真館があったころ~常磐台写真場と昭和モダン~」。7月の会期スタート直ぐに見て、とても感動してブログにしたかったのですが、忙しくて今になってしまいました。

会期が終了してもたてもの園内の常盤台写真場は常設ですので、カメラ好きも建築好きもデザイン好きも、ぜひ訪れてほしい場所です。そして実は、私がNU STUDIOくにたち(芸術資源館)をフォトサロンとして活用を考えついたヒントはここにあります。

企画展プロローグとしての昭和モダンと広告デザイン

キャリアの原点が百貨店の私にとって、この企画展のプロローグは秀逸でした。常盤台写真場が建てられた1937年(昭和12年)ごろの時代背景として、新しいライフスタイル=昭和モダンのデザインが紹介されていました。

私にとって驚きなのは1930年代の百貨店広告デザインです。今見てもおしゃれ。展示説明にもありましたが、「商品を前面に押し出すのではなく、夏であれば涼しげなデザインで目を引いたり(中略)~イメージを重要視したデザインが多く見られるようになった。」 

なにげない説明のように思いますが、お店で販売企画をした経験のある人であれば、その潔さに感心してしまうと思います。売りたい商品は「お中元用 商品券」なのに、広告デザインは「涼しげな熱帯魚」。スーパーマーケットのように、紙面いっぱいに食品と値段を並べたような訴求はしないのです。でも人はそのデザインをみて、三越百貨店の洗練されたイメージをいだいたことでしょう。ものやサービスを「気分やイメージで売る」。これは私が百貨店で学び、今も肝に銘じていることです。

1930年代の百貨店広告デザイン 今見てもおしゃれです

撮影の腕と写真台紙で競いあった営業写真師


日本の写真館は、1862年ごろに長崎と横浜で開業されたことがはじまりと言われています。その弟子たちが広がりを見せ、1927年ごろは全国で2500館以上の写真館が記録されているそうです。同時期の東京における写真師の分布が下図です。東京郊外では広い範囲でも10人も満たない人数ですね。

1930年ごろの写真師(カメラマン)の人数 憧れの職業だったことでしょう


当時、写真館のカメラマンは「営業写真師」と呼ばれていました。カメラを扱う技術力だけでなく、現像するための理化学の知識、経験、人柄。その頃カメラマンという職業がいかに特殊で、尊敬に値する存在であったか想像できます。この展示では各地の写真館の「台紙デザイン」も数多く展示されていました。写真師が写真を渡す台紙デザインにも趣向を凝らせて、差別化していた工夫が見られます。一種のブランディングですね。現在と考え方は同じです。

写真館独自の台紙デザインで競い合っていた

常磐台写真場のモダンな建築様式


つぎに実際の写真場(写真館)に移ります。1937年に東上線沿いの常盤台住宅地に建てられ、現在は東京江戸たてもの園に移築保存されている常盤台写真場。いつかここで撮影したいと、ずっと夢見ているすてきなスタジオです。


まずその外観の美しさ。余計な装飾がなく、丸みを帯びた角と、垂直に長い窓のデザインの対比が際立ちます。

江戸東京たてもの園に移築された常盤台写真場


少し無機質にも思える外観に対し、内部は木をふんだんに使用した和洋折衷スタイル。1階にはミシンが備えられた衣裳室、家族が団欒できる応接室、ヘアメイクを施したであろう支度室がかわいらしく並んでいます。

ミシンが置かれた支度室
応接室
控室
家族の思い出がつまっています

写真場には北側の天井窓から降り注ぐ自然光

階段を登ると、天井が高く開放的な「写真場」が構えられています。当時に使用されていたような淡い風景画が描かれた背景布。ビロード布を使用した高級感ある撮影用座椅子。レフ板の役割を果たしたのかと思われる白布や、レトロなランプが並んだ照明器具。

北側からの自然光に照らされた写真場
当時を再現したインテリア
撮影用照明器具

しかし撮影用の照明を使用しなくても場内には、じゅうぶんな明るさが保たれていることに気づきます。それは天井から大きく開かれた窓のおかげ。しかも窓がある方角は北側。<北側は暗い>そんなイメージをもたれる方もいると思いますが、一日中安定的でやわらかい光が必要なスタジオには理想的な北側の窓です。南側は常に太陽の傾きの変化を受けるので、光のコントロールがとても難しくなるのです。


NU STUDIOくにたち(芸術資源館)との共通点


私が今年4月から、火曜日限定でシェア・アトリエとフォトサロンを運営しているNU STUDIOくにたち(芸術資源館)。はじめてこの場所を訪れたのは数年前のことです。そのとき、入館してすぐに気づいたことはアトリエを明るく照らす北側の天井窓でした。芸術資源館が建てられたのは、約70年前。常盤台写真場が建築された少し後になりますが、時代が重なります。現代のように照明技術が発展していない時代、アトリエや写真場は安定的な光を求めてこのような建築様式を採用したのでしょう。

「美しい光だ」と感じ、芸術資源館で写真を撮ってみたいと願い数年がたち、それが実現するとは思いもしませんでした。まだ上手に活用できていませんが、この美しい光を訪れる方にも体感してほしいという想いがあります。毎週、火曜日には「写真クラブ」を開催していますので、ぜひ皆様のご参加をお待ちしています。

NU STUDIOくにたち(芸術資源館)のアトリエ


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