前回に続き、6月上旬にパシフィコ横浜で開催された「PHOTO NEXT2024」についてのレポートです。今回はコロナ前、コロナ後の変遷を見てきて感じたことをまとめます。
コロナが変えた写真スタジオの商習慣
全体的にはコロナ前の賑わいが戻ってきたという印象を受けました。
フォトビジネスの売り上げの大部分は、「七五三」「成人式」「結婚式」という人生のセレモニーが大きく関わっています。コロナ禍ではそれらの行事が立て続けに中止。撮影サービスを提供する場としての「写真スタジオ」や「ホテル」も機能しなくなる時期が続きました。
その時期、逆に売り上げを伸ばしたのは「ロケーション撮影」。密にならない屋外での撮影です。成人式や結婚式ができなくても、せめて写真には残したい。そのようなニーズの高まりから、都会から観光地、あるいは電車や飛行機といった特別な場所で撮影するプランが続々と生まれました。
それは従来の「写真館」「写真スタジオ」の商習慣を大きく変えることになります。写真館は、衣装もメイクも完璧に揃えて撮影。1、2枚を台紙に収めるという販売方法が主流だったのに対し、ロケーション撮影は何枚もの写真をドラマ仕立てに撮影します。仕上げの方法はまずデータが主体。その中の選りすぐりをフォトブックに仕立てるというような流れです。
データは形に残りません。つまりPHOTO NEXTで出展するようなプリント業社、台紙業社さんには困った事態となったわけです。コロナ禍の展示会で記憶にあるのは、「データ納品のためのソリューション会社が増えた」ことです。たとえば結婚式のロケーション前撮りで、膨大な数の写真を撮影したあとに、お客様自身に写真をセレクトいただくことを代行してくれるシステムなどです。
今年はその流れもいったん終わり、従来通りにセレモニーを見据えた貸衣装屋さん、台紙屋さんがより洗練されて戻ってきたように感じました。
2024年度大手プリント会社の動向
前回の中でご紹介した大手3社、「富士フイルム」「ラボネットワーク」「アスカネット」の動向をみます。
「富士フイルム」はBtoB、BtoCともに業界を引っ張るトップ。写真という文化ごと価値を継承していきたいという意気込みを感じるブースでした。「人は、写真で、幸せになれる」という強いメッセージ。写真に残すことの意味、残すからこそ感じられる幸せ。商品ラインアップには大きな変化は感じませんでしたが、写真文化そのものを伝える活動に力を入れている印象をもちました。
「ラボネットワーク」はカメラのキタムラ系のフォトサービスで、BtoB に強い会社です。こちらはSDGsを強く意識した新商品が目につきました。写真スタジオで取り扱う台紙は、今現在もさまざまな素材が組み合わされています。布、アクリル、レザーなど。見栄えがよく高単価で売れる商材ですが、長い目でみると地球への負荷は大きなものです。ラボネットワークから出品された商品は「リサイクルウッド製台紙」「ペットボトル再生素材」等、資源の循環を考えて作られています。
「アスカネット」はフリーフォトグラファーに人気の写真加工サービス会社です。大小さまざまなサイズ、ページ数も柔軟につくれるフォトブックが魅力です。商品ラインアップには大きな変化を感じなかったのですが、ひとつ注目したことは「お客様自身が操作するAIレタッチソフト」です。レタッチという言葉、少し前まではカメラマンしか知らないような言葉でしたが、今ではよく知られる画像修整のことです。このサービスは撮影後にお客様自身にレタッチを任せることができるAI画像処理だそうです。人手の足りない写真スタジオには助かるシステムかもしれませんね。
あらためて、写真に残す価値
その他のブースやパビリオンを見る中で感じ取ったことは、「改めて写真に残すことの価値」が見直されている、見直そうというトレンドが生まれているということです。コロナ前のように写真を撮影したら当たり前のように台紙やフォトブックに残すという習慣ではなく、お客様それぞれが主体的に、意思と目的をもって写真に残すという動きです。また写真自体もたくさん数だけ撮ればいいということではない。
必要な写真を自分らしく残す。撮影するプロカメラマンは単に撮るのではなく、お客様ごとの価値観を理解することが求められる時代と感じました。
良い写真は、ゆっくり時間をかけて伝わる写真
さいごに、私が毎回この展示会で楽しみにしているコーナーがあります。「日本写真館賞受賞作品」です。全国の写真館から出品されたポートレートの優秀作品が飾られています。その1点1点の写真の力強さ、光と影の美しさ、際立つような被写体。これらはプリントされているからこそ伝わる写真の力だと思います。SNSに次から次へと流れてくるような写真にはない、時間をかけてこそ良さが伝わってくる写真。
私のプロカメラマンとしてのスタートは「写真館」です。伝統的で古臭くも感じますが、クラシックはすべての基本。毎回「日本写真館賞」の写真を見ると、原点に立ち返り目指すところを認識する機会になります。精進していきたいと思います。
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